連休を利用してずっと東宝特撮映画を見てるのだが、今日のお話は、さっき見終わったばかりの「空の大怪獣 ラドン」について。

 世界各地で報じられる謎の巨大な飛行物体のニュース。それは原水爆実験の影響で目覚めた翼長270フィート、体重100トンのプテラノドン、怪鳥ラドンの姿であった。九州・阿蘇火口で地底に群れなすヤゴのような怪物メガヌロンを次々とついばんでいたラドンは、やがて本能の赴くまま風を巻いて飛び上がり、福岡市街に降り立った…。

http://www.toho-a-park.com/より抜粋)

「空の大怪獣ラドン」は、「ゴジラ」「ゴジラの逆襲」と立て続けにヒットを飛ばした東宝が、1956年に公開した、東宝特撮初のカラー作品である。

昨日の「地球防衛軍」はいささか期待ハズレの印象があったが、こちらはなかなか面白かった。
だが正直言って最初に想像していたものとは少々印象が違う作品でもあった。何を隠そう、ラドンの登場がかなり遅い。タイトルこそ「空の大怪獣ラドン」であるが、物語前半は延々と炭鉱で起きた殺人事件の捜査が繰り広げられる。だから、後半まではラドンの「ラ」の字も出てこない。とはいっても、それがつまらなくはなく、「炭鉱」という暗黒の世界で起こった奇妙な事件を、緊迫感たっぷりに見せてくれる。やがてその殺人事件の犯人は、ラドンと共に蘇った、古代のヤゴ「メガヌロン」の仕業だと判明するのだが、そのメガヌロンの登場シーンがなかなか良く出来ている。「キリキリ」という不気味な効果音と共に、山麓の民家に姿を現すメガヌロンは、見ていて思わずギョッとしてしまうだろう。メガヌロンの容姿自体はどこかかわいらしかったりするのだが、そんなヤツがジャック・ザ・リッパーよろしく人間を切り刻んでしまうのだから、逆に不気味である。

そして後半で満を持してラドンの登場になるワケだが、かなりもったいぶった分、スピード感溢れる展開で、一気にラストまで物語を引っ張っていく。しかもその登場が唐突ではなく、殺人鬼だったメガヌロンをエサとするなど、「メガヌロンを超える脅威」としての描き方をしており、実に上手い。
登場からして特撮的な見所が多いラドンだが、その後も西海橋の破壊シーンだとか、北九州上空でのドッグファイトだとか、数え切れないほどの見せ場の連続。そしてクライマックスの福岡での攻防戦は特撮映画史上に残る名場面だと思う。そりゃ、CG全盛となった現在の特撮から見れば、戦車の砲撃シーンとか明らかにミニチュアなんだけど、恐らく大扇風機を使った大旋風のシーンは、実写の迫力を大いに見せ付けてくれた。また瓦が一枚一枚飛ぶなど演出が非常に細かいため、自然と画面にのめり込んでいけるんだよな。福岡のシーンはそういうワケで名場面が多いが、特筆すべきはやはり天神・岩田屋のシーンだろう。岩田屋のミニチュアは東宝特撮史上でも最高傑作とイイかもしれない。当時の資料を見てみたのだが、実際の岩田屋と見間違うほどのリアルさだった。それを一気に破壊してしまう思い切りのよさも、またこの作品の魅力といえるだろう。

ラストシーン。ラドンは二匹揃って阿蘇山で最後を遂げるのだが、ここには独特の悲壮感が漂う。人間のために滅びなければならなかった、という怪獣独特の悲しさを見事に演出しており、もがき苦しむラドンの姿を素晴らしい映像で記録しているといえよう。ちなみに、このシーンでは撮影中にラドンを吊っていたピアノ線が切れてしまったという、有名な逸話があるが、円谷監督の思惑通りに、もがき苦しむラドンを見事に表現できていた。
「失敗を成功に変える」。これが、アナログ特撮の良いところなのだろう。

最後に、この特撮シーンを大いに盛り上げた伊福部昭の音楽も、やはり特筆に値する。特に、ドッグファイトのシーンに流れる「ラドン追撃せよ」と呼ばれる楽曲は、今なお語り継がれる名曲である。





「空の大怪獣ラドン」
製作:田中友幸 原作:黒沼健 脚本:村田武雄・木村武
音楽:伊福部昭 特技監督:円谷英二 監督:本多猪四郎

河村繁:佐原健二 キヨ:白川由美
柏木久一郎:平田昭彦 井関:田島義文 西村警部:小堀明男
南教授:村上冬樹 大崎:山田巳之助

封切:1956年12月26日

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