だいぶ間を空けてしまったが、2年ぶりの新作「映画ドラえもん のび太の恐竜2006」を見てきたのでレビューしよう。

ひょんなことから恐竜の卵のような物を発見したのび太は、その卵を孵化させてみると、白亜紀の日本にいたというフタバスズキリュウが生まれてきた。のび太はその恐竜をピー助と名づけ、内緒で飼い始めるのだが……。


前作「のび太のワンニャン時空伝」から2年。ドラえもんが再びスクリーンに戻ってきた。
今回は、1980年に公開された、映画「ドラえもん のび太の恐竜」のリメイクとなったワケだが、最初はほとんど期待していなかった。リメイクって、結局のところ2番煎じに終わることが多いからだ。だから、正直言って不安だった。
とはいえ、2月3日に始めてこの作品のTVスポットを見たとき、その脅威の映像に驚かされた。それ以前に劇場で予告編を見たときは、いまひとつピンと来なかったんだが、このTVスポットを見てそれまでの不安は全て吹き飛び、その不安は期待へと変わった。

実際、劇場へ足を運んで作品を見てからも、期待は不安へともどることも無く、最後まで作品を安心して楽しむことが出来た。
それでは、今回は例によって、作品の頭から終わりまで順々に感想を述べていこうと思う。

(※注 以下、原作=てんとうむしコミックス「のび太の恐竜」
オリジナル=80年版「のび太の恐竜」
映画・本作=「のび太の恐竜2006」を指す)

・・・っと、作品の話に入る前にイキナリ余談。私がこの作品を見に行ったのは、日本最大の映画館・川崎チネチッタだったのだが、他にも作品が数ある中、ドラえもんだけが別館での上映(隔離?)となっていた。これは恐らく子供が多いことに対しての配慮であろうが、その所為か売店は小さな子供でいっぱい!まぁ子供向けの映画としては正しい姿勢であると言えよう。こういううるさい環境を嫌う方もいらっしゃると思うが、何ていうか私は微笑ましかった。

さて、そういうコトで終始賑やかな雰囲気で映画は始まったワケだが、「ドラえもん」映画といえば、最初にプロローグの一幕があって、のび太の「ドラえもぉ〜ん」でタイトルが出るのが常であった。しかし今回はそれを止め、東宝マークが出た直後にメインタイトルが出る(オープニングが流れる)という構成になった。実は、これはオリジナルと全く同じ構成で、冒頭から早くもスタッフがオリジナルのスタッフに対して敬意を表していることが伺える。こういったオマージュは、そのあとにも何ヶ所か見られる(意識していたかどうかは別として)のでそういったシーンを探してみるのも面白い。

そのオープニングだが、そこに流れたのはオリジナルで使われた「ぼくドラえもん」でも、おなじみの「ドラえもんのうた」でもなく、現在TVで使われている「ハグしちゃお」だった。コレは微妙に寂しい気もしたが、見に来ていた子供たちが元気に歌っているのを聞いて、一安心でもあった。正直、アレに変わってからオープニングが子供たちに浸透しているかどうか心配だったんだけど。
そして本編が始めるわけなんだけれど、最初に黒マスクによる恐竜捕獲シーンが入る以外は、スネ夫が恐竜の卵を見せびらかす〜のび太が卵を見つける〜育てる〜湖で騒ぎが起きる〜のび太とピー助の別れといった一連の展開は原作どおりで、原作を読んでいるファンにとっては嬉しいところだ。しかも原作のセリフを丁寧にアニメ化しているので、原作の素晴らしさが現在の観客に伝わるのも良い。ところどころに挿入された、本作のオリジナルシーンも違和感無く噛み合っていて安心だ。中でも特筆すべきはやはりのび太とパパの絡み。原作では布団を引っ剥がそうとする役割だけのパパだったが、今回は優しいパパのシーンを挿入し、物語に含みを与えている。
ここでの見所は何と言ってもドラえもんの「あたたかい目ぇ〜☆」だ。正直言って若干クドイんだが(^^;子供たちにウケていたのでそれで良い。私は渡辺監督の無駄にキャラの顔が変形する演出がどうも好きになれないんだが、今回ばかりは成功しているようで良かった(ジャイアンの表情なんか頂けない部分もあるけど)。また随所に散りばめられた小ネタの数々もアッパレだ。ファンの方ならご存知だと思うが、のび太の机の上に置いてある恐竜のおもちゃは藤本先生(藤子・F・不二雄)の机に置いてあった物だし、スネ夫がのび太に対して「ウソつきだ」と馬鹿にするシーンで、のび太の後方に書いてある習字の作品の文字が「真実」という文字になっていたりと、ネタに気付くとなかなか楽しい。
こういったのび太とピー助の最初の別れのシーンまでで、映画一本分のボリュームがあり、実に素晴らしい。

さて続いて映画は後半に移るのだが、ここから少し原作と展開が違ってくる。おおまかな流れはそれほど変わらないのだが、やや説明的なセリフがカットされているように感じた。
例えば原作には、のび太の
「ね、一口に一億年というけど、一億年てどのくらいのむかし?」
といったセリフから始まる、時の流れの大きさを痛烈に感じさせる一連のシークエンスがあるのだが、この流れはまるまるカット。これは恐らく児童の観客を意識したための削除なのだと思うのだが、このカットの所為でその後の流れが少々強引になってしまっている。このシーン、個人的に好きだったんだけど。
その後もオリジナルにはあった「640キロ」という具体的な数字が削除されて進む距離がわかりづらくなっているし、そもそも日本へ向けてタケコプターで出発〜湖でティラノサウルスに遭遇までの過程がダイジェストになっていて何だかもったいない。その他にも細かい描写がカットされている(翼竜への恐怖を感じさせるセリフなど)ので「何でここが切られたの?」と疑問を持たざるを得ない。
しかし、だからといって作品自体が悪いものに仕上がっていると言ってしまうのは早とちりと言うものだ。その分、アクションシーンは、従来のドラえもん映画とは一線を画した素晴らしいモノになっている。特に川の氾濫シーンは素晴らしいという他ない。さらに最大の見せ場である滝からの落下シーンも凄まじい迫力で描いている。また個人的に嬉しかったのは、オリジナルで「ドラえもんのうた」が流れたのと同じ箇所に今回の主題歌「ボクノート」のインストゥ・メンタルが流れたことだ。

さてドラえもん、のび太が滝に落下した後は原作とはかなり異なった展開になる。以下にそれを列挙してみると・・・。

・(原作)捕まったしずか、スネ夫、ジャイアンは黒マスクらに“考えを読み取る装置”を使われ「タイムマシンヲノットッテ ニッポンニ カエル」という考えを読まれてしまう→(映画)削除・・・「ノットル」という言葉がマズかったか?
・(原作)ドラ・のびは黒マスクたちに半ば誘導されて基地に着く→(映画)ドラ・のびは基地へと強制連行される
・(原作)黒マスクらを倒したのび太たちの基地からの脱出シーンは無い→(映画)一行はドラえもんのポケットを使って自力で脱出する
・(原作)ドラえもんたちを日本に返すのはTP(タイム・パトロール)→(映画)ドラえもんたちはピー助と別れた後、自力で日本へたどり着く。故にドラたちとTPの直接的な絡みは一切無い

・・・コレが大きな相違点である。実際はもっとあると思うが。まぁ、こうやってわざわざくどくどと列挙してみたが、私はコレはコレでイイと思っている。原作の展開を見たかった気もするが、本作の決定的なテーマである「最後まで自分たちの手で頑張る」といったテーマを尊重させた変更であるように思うからだ。その為に展開が少々強引な部分があるものの、こう変更したために、最後ののび太とピー助の別れが一層引き立つというものだ。横画面にのび太が走るシーンは涙が出た。やっぱり一対一のほうが別れのシーンは盛り上がるんだなぁ・・・。
そしてエンディング。ラストに原作の一こまが挿入されるシーンがあるのだが、この「夕日がきれいだね」のセリフが画面に現れたとき、その涙は最高潮になった。まっ、ちょっと反則な気もするけどね。^^;

一方、毎回恒例のキャスティングと主題歌の話もしていこう。97年以降、芸能人起用が顕著になっている「ドラえもん」映画だが、今回は船越英一郎、神木隆之介、劇団ひとりが参加した。ハッキリ言って今までの芸能人起用は散々な結果だったのだが、今回やっと成功を見た。船越の黒マスクは全く違和感無かったし、神木のピー助も心配する必要は無く、オリジナルのよこざわけい子にも負けないほど見事に演じていた。もちろん劇団ひとりも、芸人だからといってでしゃばることもなく、素直に作品へ力を注いでいた。さらにカメオ出演となったスキマスイッチの二人なんか、ドコに出ているかさっぱりわからないほど、違和感無く演じていた。これはもう嬉しい限りだ。
最後になるが、今回の主題歌は前出のスキマスイッチの「ボクノート」が流れた。これももう非常にイイ出来。武田鉄矢の手を離れた映画主題歌は一部を除いてどうしようも無かったが、今回は画面にも世界観にも違和感無く溶け込んだ主題歌が出来上がった、歌詞を載せることは出来ないけど、未聴の方は是非聞いてみることをオススメする。
ホントはひょっとしたら水田版「ポケットのなかに」が聞けるんじゃないか、と思っていたのはココだけの話・・・

そういうわけで長くなってしまったが全体的に見て素晴らしい作品だった。正直言ってTVアニメとの作画の違いへの違和感や、ランニングタイムの関係による描写不足への不満もあるが、それは来年に期待というコトで(^^;
来年といえば、来年はどうなるんだろう?このままリメイク路線を続けるとは思えないし、完全な新作になるんだろうが、そうなるともうプロットは出来上がっているハズである。今度はどんな展開になるのか、今年の作品を見たら期待大だ。まぁ、別にリメイク路線を続けてもらっても個人的には構わない。このまま「宇宙開拓史」をまたやるのもイイし、最高傑作と謡われる「鉄人兵団」だとか携帯サイトの人気投票で一位になった「雲の王国」でもイイんだから。

余談になるが、今年の映画も興行的に大成功を収めているようで万々歳だ。私は「前作の半分の15億円いけば成功」なんて消極的に考えていたのだが、まだまだドラえもんには無限の可能性があるということが、この結果によって証明されたということだろう。



来年もこの調子でイイ作品をまた見せてね。









「映画ドラえもん のび太の恐竜2006」
原作:藤子・F・不二雄 総監督:楠場宏三
脚本:楠葉宏三・渡辺歩 音楽:沢田完 監督:渡辺歩

ドラえもん:水田わさび のび太:大原めぐみ
しずか:かかずゆみ ジャイアン:木村昴 スネ夫:関智一
ピー助:神木隆之助 黒マスク:船越英一郎 ドルマンスタイン:内海賢二
タイムパトロール隊長・オヤジ・主婦A・リサイクル業者・レポーター:劇団ひとり

主題歌:「ハグしちゃお」(歌:夏川りみ)
     「ボクノート」(歌:スキマスイッチ)
封切:2006年3月4日 

コメント

清乃助
清乃助
2006年3月17日2:24

まだかよ(笑)