さて、今日から不定期で25年以上前に公開された、邦画の傑作を紹介していこうと思う。
1回目は「日本沈没」だ。

深海潜水艦・わだつみのなかで日本海溝の異変に気づいた小野寺と田所博士。二人は政界・財界のトップによる“D計画”のために働くことになり、綿密な調査の上、恐るべき推測に到達する。日本列島が海に沈もうとしているのだ……。
 

「日本沈没」は、小松左京のベストセラー小説を軸に、1973年に劇場公開された作品である。監督は「八甲田山」の森谷司郎。主演は小林桂樹、藤岡弘(現:藤岡弘、)、いしだあゆみ。日本映画界に“パニック映画”というジャンルを加えた、記念すべき作品である。
ちなみに、当時の観客動員数は空前の650万人。配給収入は20億円。この数字は以後1993年まで東宝の正月映画の記録を保持し続けた。
本作のヒットを受け、翌年にはTBSでドラマ版も放送されている。

さて、そういうワケで「日本沈没」である。
もう公開は今から遡る事30年以上前になってしまったのだが、この作品は、今見ても古さを感じない“何か”を感じさせる作品になっている。何を隠そう、本作で描かれている出来事は、実際に起こり得るのだ。所詮はただのディザスター・ムービーとの捉え方も出来なくはないが、平和ボケした日本人の一人として、本作を見て危機管理などについて考え直せれば、それに越したことはないであろう。
とにかく本作は何が優れているかといえば、日本沈没までの科学考証と、有無を言わさぬ自然災害の素晴らしいスペクタクルシーンの描き方だ。特に科学考証に関しては特筆に値するのではなかろうか。だいたいこういう題材を作品に扱うと、ムリに説明っぽくなるのは否めないが、本作は冒頭から恐怖感を煽りつつ、日本沈没までの過程を示しているのでそういった心配は皆無だ。また作品の登場人物が「分かりやすく説明して欲しい」などと登場する科学者陣に意見したりするので、実に見ている側にとっても分かりやすい。アラを探せば日本が沈没するのに、周辺の朝鮮・ロシアなどが被害を受けない、なんてことは有り得ないんだが、お話の根幹がしっかりしているので、見ている間は意外と気にならなかったりする。
もう一つ、本作の最大の見せ場であるのが、その度重なる自然災害のシーンである。日本沈没の予兆であり、本作最大の見せ場であるのが東京大地震のシーンなのだが、これがもう素晴らしいの一言である。個人的な話で恐縮だが、本作を鑑賞する前はオイルショック真っ只中に製作された作品ということで、特撮部分に関しては全く期待していなかったのだが、その事を謝りたくなるほど見事な出来に驚いた。マグニチュード8の大地震が東京を襲うといったシークエンスなのだが、従来の怪獣映画などで描かれた爽快感という意味の破壊シーンは影を潜め、迫り来るような恐怖感を煽った破壊シーンを演出している。中でも高速道路が崩壊するシーンや、津波の濁流が人々を飲み込むシーンは、あまりの迫力に言葉を失うだろう。また火災によって人々が火だるまになるシーンや、関東大震災で実際に起こったという、道路に焼死体が並ぶシーンなどショッキングなシーンも登場するので、娯楽映画として見るとショックを受けるかもしれない。その他名場面として東京湾沿岸のガスタンクが大爆発するシーンや、70年代になって新たに見られるようになった、高層マンションの崩壊など、特撮的な見所は多い。ちなみに、特撮を担当したのは後期「ゴジラ」シリーズで特撮を担当した中野昭慶。当時としては破格の5億円の予算を使い、当時最高の特撮技術で恐怖感を醸し出している。

さて余談だが、有名な話なのでこの東京大地震に関する裏話を紹介しておこう。本作が公開された当時、この東京大地震における高速道路崩壊シーンに関して、原作の小松左京氏は評論家連中から「そんなことは有り得ない」と総スカンを食らったそうだが、1995年の阪神大震災における阪神高速崩壊により、小松氏の仮説が正しかったことが22年ぶりに証明されたのだ。これには小松氏自身も驚いたという。とはいえ、当然これは喜ばしいことでも何でもなく、日本人の危機管理の無さを改めて感じることになるという、皮肉な話になったのだ。
(ちなみに、高速道路から話は逸れるが、日本人の危機管理の無さを思い知ることが出来る映画に「東京原発」がある。少々暗喩的なきらいもある作品だが、一見の価値アリなのでおすすめ)

さぁ、話を戻すが、ここまでで如何に本作が素晴らしい作品かがわかって頂けただろうか。それにより、鑑賞意欲を掻き立てて頂ければそれに越したことはないのだが。

でももう少し語らせてもらおう。
先ほども語ったが、本作の特撮シーンは非常に素晴らしい。前述の東京大地震の他、日本映画初となる富士山の大噴火のシーン。何よりこの噴火シーンは、ミニチュアによって撮影されたのだが、ミニチュアに全く見えないのだ。マグマの流出なんか、実際に現場に行って撮って来たんじゃないかと思うぐらいの出来で、ホントにこんな作品が30年以上も前に製作されたのか、と疑りたくなるほどの出来。
また日本各地に押し寄せる大津波や、崩壊した後の素晴らしい東京のセット。更に沈没間際の日本列島の遠景など特撮的な見所は多い。

と、何やら特撮ばかり大いに語ってしまったが、本作のホントの見所は重厚な人間ドラマにある。中でも、小林桂樹の演じた田所博士は本作を彩る重要人物だ。「日本沈没」というあまりに破天荒なことを警告したので、当初は“キチガイ”(※)扱いされたマッド・サイエンティストとして描かれるが、後に彼の予言が皮肉にも的中したことから、一気に緊張感を盛り上げる。特に彼のラストシーンは圧巻だ。
また田所博士と同時に強烈な存在感を示すのが、丹波哲郎演じる山本総理だ。日本映画でここまで強烈な印象を残す総理大臣は、あまり見たことが無いのだが、意外な名言を言ったりなど、物語の重要部分に絡んでくる。その分、本来主役であるハズの藤岡弘、いしだあゆみ組の描写が印象に残らないが、ラストに悲しいシーンが待っているので、そちらに期待して欲しい。また人間ドラマとしては、日本沈没における諸外国や国連の対応を描いた描写もリアルで素晴らしい。
そして特にショッキングであったのが、日本沈没に対する「何もしない」という対応を提案するシーン。これは強烈な印象を残すことだろう。


というワケで、日本映画初のパニック映画として、実に素晴らしい出来である作品であったことがご理解いただけただろうか。未見の方は是非ご覧になって欲しい。
余談だが、東宝は翌年にも「ノストラダムスの大予言」という大ヒット・パニック映画を製作しているのだが、諸般の事情によりソフト化していない。理由は、ラストに登場する軟体人間が、何かの規定に引っかかるとかいうことらしいのだが。早期のDVD化を望む。


さて最後に今年公開されるリメイク版の話をして、本項を締めくくろう。
昨年の10月に各メディアで報道されたので、ご存知の方も多いと思うが、今年の夏にリメイク版が公開される。監督は「ローレライ」の樋口真嗣で、特撮は「亡国のイージス」を担当した神谷誠が担当するという。主演は草?剛、柴咲コウ。登場人物名はそのままで、オリジナルでいしだあゆみが演じた阿部玲子がハイパー・レスキュー隊員の役になったり、田所博士に豊川悦司が起用されたり、新たに官房長官や危機管理大臣が登場したりと、「戦国自衛隊1549」同様オリジナルとはかなり違った作品に仕上がることが予想されるが、予告編を見た個人的な感想では、実に期待できる作品に仕上がっていると思う。
オリジナルでは見れなかった海の底に沈んだ大阪のシーン(オリジナルでは、沈没後の都市は描かれなかった)や東京以外の具体的な破壊シーンなども見られるようなので、今年の夏を期待して待って欲しい。

そのリメイク版を楽しむためにも、このオリジナルを一度ご覧になって見てはいかがだろう?




(※)現在は不適切とされている言葉だが、73年当時は日常的に使用されていたものだった。








「日本沈没」
製作:田中友幸 原作:小松左京 脚本:橋本忍
音楽:佐藤勝 特技監督:中野昭慶 監督:森谷司郎

田所雄介:小林桂樹 小野寺俊夫:藤岡弘 阿部玲子:いしだあゆみ
渡老人:島田正吾 邦枝助教授:中丸忠雄 片岡:村井国夫
結城達也:夏八木勲 吉村秀夫:神山繁 山本総理:丹波哲郎

封切:1973年12月29日 観客動員数:650万人

コメント

kaj
kaj
2006年4月22日21:44

私は、結局、執筆されないままでいる原作の第二部(予告だけはされてたんですよね、確か)が気になって仕方がないんですけどもね(^_^;)
イメージとしては、やっぱりユの付く人達をエミュレートしたかったのかなぁ、等と妄想してしまいます(笑)

ゴジバト
ゴジバト
2006年4月27日17:17

確か「日本沈没」自体は“序章”に過ぎなかったんですよね(^^;実際、小説版のラストには“第1部・完”と書いてあるみたいですが。とはいっても、小説版の方は未読なワケで汗